わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

5人の弁護士が、新しい法律や身近で起きた事、感じた事をご紹介します

裁判員制度について思う

1.新聞などのマスコミでも「裁判員」について、かなり報道が目につくようになりました。このホームページを読んでいる方も「選任」されるかもしれません。改めてここで重大だと思うことを書いておこうと思います。

 

2.私(小林)は実は「賛成だが、いかにも不充分だ」と思っています。
(1)何故賛成か
 「裁判」というのは、日本ではどうも「お上がやるものだ」という基本的な価値観があると思います。
 しかし、この「お上」というのは「民主制」とは対立するものであろうと私は考えています。故司馬遼太郎氏の文に、日本人の「治められ上手」という表現がありました。時々同じようなことを外国をよく知っている人からも聞きます。どうも「よく働く」という話につながるようです。しかし、すべてに良い面と悪い面があります。ここはよく考えるべきです。
 治められ上手というのは、悪くすると単に受身であり、面従復背という形でしか社会に参加しないということに結びついていると私は認識しています。
 これは、克服すべき部分と思います。裁判員としての参加はお上ではなく、「自分達が(主人として)やるんだ」ということにつながっていきます。だからこそ私は賛成です。
(2)何故、不充分か(刑事裁判の構造と労基法などで足るか、という心配)
 これは刑事裁判の構造として、被告人の「正当な」防禦権への考慮が置き去りにされているのではないか、と思うからです。例えば「迅速な裁判」というと「素晴らしい」と言ってしまうにはためらいが出るのです。
 迅速に終わらせると、誤判もしくは証拠の不充分さが見逃されるなどの危険は充分にあります。従って、審理を尽くそうとすると、その場合はある程度の長期化が避けられません。そのためにも、裁判員の方が「出頭する場合の権利保護」を勤務先との関係で保障する必要があります。労基法では休日の取得が保障され、裁判員法では不利益取扱禁止の定めができました。ですが、実際には身近なものとして皆さんが認めていくことが必要になると思います。
 実は、刑事裁判については、弁護側からすると心配の種が非常に多いのです。「取調の可視化」(録画です)を完全なものにするべきだ、とか「代用監獄」(警察の留置場です)を廃止すべきであるとか、検察官の上訴権が無限定すぎるなどといった大きな問題が残されているのです。すべて「自白を重大なものとする」ことにつながります。ところが、これらを考えていこうとしても「悪い奴」のニュースが出るとそういった問題が隠されて、「早く判決しろ」となってしまうのです。加えて、「どうしてあんな奴の弁護をするのだ」という非難(だけ)が大きくクローズアップされるわけです。裁判を「復讐劇場」にすべきではありません。このあたりは国民全員が冷静にじっくりと考えてみるべきだと思います。


3.「死刑」にも関連します。
 「死刑」が求刑されると裁判員の方は大きく悩むはずです。私は「死刑」については段階的に廃止した方がよい、との考えです。しかし、死刑に賛成という方でも、現実には「本当にいいのだろうか」という悩みが大きくなるはずです。有罪ということについて確信が持てたとしても、量刑については、数学と同じような客観的な基準を決めることは無理です。量刑「相場」はこのくらいという形で今まで死刑についても裁判所内部で運用されて来ましたが、皆さん納得できるでしょうか。結局、裁判員の方にとってみれば求刑での「死刑」はない方がよりよいのではないでしょうか。(何故廃止を求めるか、というテーマは継続にしたいと思っています。)
                                    以上

                                  小林政秀

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