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わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

4人の弁護士が、身近で起きた事や感じた事を紹介します

裁判員裁判を経験して

 最近,とある性犯罪の事件で初めて裁判員裁判の弁護人を経験しました。その雑感です。

①連日開廷は大変
 従来の刑事裁判では,連日開廷ではなく,1週間とか1ヶ月とか,ある程度の期間をおいて審理をしていました。弁護人もその期日の間に,いろいろと準備ができます。ところが,裁判員裁判では,被告人が罪を認めている事件,事実関係に争いがある事件,どんな事件でも連日開廷が基本です。一度,公判が始まると,準備する時間というのはほとんどなく,最初から最後(判決)までノンストップであっと言う間に裁判が進むという感覚です。私の場合は,2日間だけの連日審理でしたが,審理期間中は息をつく暇もないほど忙しさを感じます。これが5日間とか10日間とかにわたれば,間に休日が入っても相当な苦労を要するでしょう。もちろん,裁判官,検察官もそうだと思いますし,裁判員の方々の心理的な負担も大変なものだと思います。
 そして,弁護人の立場からは,何より被告人の権利保護に不安を持たざるを得ないのが正直な実感です。迅速な裁判というのは,被告人や被害者その他関係者にとって重要な利益ではありますが,拙速な審理によって誤った事実認定や不当な量刑がなされないように努めなければならいのは当然のことです。

②公判前整理手続き
 このように連日開廷になりますと,裁判前の準備が重要になってきます。そこで,裁判員裁判の対象事件では,必ず,事前に「公判前整理手続き」という手続きが行われます。なお,公判前整理手続きは,裁判員裁判対象事件以外の複雑な事件でも行われることはありますが,裁判員裁判では必須とされています。
 公判前整理手続きでは,①検察官,弁護人双方の主張を整理し,②裁判での争点を確認し,③どのような証拠を出すか確認したうえ,④裁判当日のスケジュールを決めるということが主要な目的です。公判前整理手続きには,裁判員は加わらず,裁判官のみで進められます。私の担当した事件では,事実関係に一部争いがありましたが,約4ヶ月間の間に5回の期日が開かれました。
公判前整理手続きの過程では,検察官が法廷に出す予定の証拠は全て弁護人に開示されますし,出す予定のないものでも,例えば被告人の取り調べの際の供述調書など,法律上の要件があれば,検察官手持ちの証拠が弁護人に開示されます。そして,証拠として必要のないものや信用できないものなどについては,証拠にすることに不同意(反対)とか異議ありとの意見を述べ,証拠として用いられないようにします。
 そして,互いに主張・反論や証拠を検討したうえで,審理に必要な時間を見積もり,当日のスケジュールを作成します。このスケジュールは,証拠書類の取り調べや証人尋問等の予定開始時刻,予定終了時刻,休廷時間等分単位で細かく決められます。
 こうして,公判では,争点に絞った充実した審理をすることが期待されています。
 なお,検察官と弁護人は証拠の具体的内容を公判前に知ることになりますが,裁判官は,公判が開かれる前には証拠の内容を知ることはできません。
③わかりやすい裁判を目指して
 裁判員裁判では,職業裁判官3人に加え,原則として裁判員6人が審理に加わります。
法律家(裁判官,検察官,弁護士)だけが関与する従来の裁判では,法律の専門用語や独特な,あるいは難解な言い回しが多用されています。また,いろいろな書面が多用されています。法律家同士では,正確にコミュニケーションがとれるし,その方がかえってわかりやすいところもあり,また長い書面を読んで理解することにもそれなりに慣れているため,あまり問題がありませんでした。しかし,裁判員裁判では,法廷での口頭でのやりとりを見聞きして判断するのが基本です。
 裁判員の方には,口頭で例えば「誤想過剰防衛」などと言われても普通は何のことかわからないと思いますし,「強盗罪の暴行とは被害者の犯行を抑圧するに足る程度の暴行である。」と言われても,意味は分かるかも知れませんが,その場で理解するのは難しいのではないでしょうか。
 そこで,弁護人も,裁判員の方にも自分たちの主張が理解してもらえるように,わかりやすい言葉を用いて説明する・・・ということになるのですが,これがなかなか難しい。普段,書き言葉に慣れ親しんでいる身には,口頭でわかりやすい言葉でというのは意外と難しいと実感しました。また,口頭での説明以外にも,パソコンでプレゼンのソフトを使うとか,ホワイトボードを使うとか,理解を助けるための補助的ツールを使うことについて,弁護士会ではいろいろと研究がなされています。今回私の担当した事件では,主張の要点を箇条書きにしてまとめたペーパーを配布するという方法でやってみましたが,今後も試行錯誤が続くと思います。

④性犯罪と裁判員裁判
 強姦,強制わいせつなどの性犯罪の場合,被害者のプライバシーへの配慮から,被害者の氏名を秘匿したり(法廷では「被害者Aさん」などと呼ぶ。),被害者や被告人の供述調書の朗読の際,実際の犯行の生々しい部分については声に出さないで,裁判官,裁判員に黙読してもらったり,証人として尋問をする場合には別室で行ったりするなどの措置がとられています。
 また,被害者は,法廷に出席して情状についての意見を述べ,又は出席するかわりに書面を提出して検察官に法廷で読み上げてもらうことができます(意見陳述)。その内容は,事実関係についての証拠にはできませんが,情状に関する証拠にすることはできます。
更に,被害者は,積極的に,自らあるいは弁護士に委任して裁判に参加し,被告人に質問をしたり,量刑に関する意見を述べたりすることが可能です(被害者参加)。
 私の担当した事件では,被害者(2名)の方々いずれも書面を提出して厳罰を求めていました(女性の検察官が法廷で代読)。このことが,どの程度裁判官,裁判員の心証に影響を与えたかは分かりませんが,世間的に見て,これまでの性犯罪に対する従来の量刑は軽いと言われており,裁判員裁判では従来の相場より重くなることが多いようです。私の担当した事件でも,判決で,はっきりと「従来は軽すぎた」との指摘がされていました。今後もこの傾向は続くと思います。

⑤最後に
 私の経験した事件では,事実関係に一部争いがあったのですが,被告人の主張が認められました。そもそも裁判員制度が導入されたのは,刑事裁判に一般市民の健全な常識を反映させるためでした。私としては,今回,常識的な正しい事実認定が行われたものと思います。
 裁判員裁判では,特定の重大な犯罪についての弁護をすることもあり,弁護人に対し「こんな悪い奴の味方をするのはけしからん」と世間から非難がなされることもありえますが,えん罪を防ぎ,恣意的な裁判がなされないよう被告人の権利を護るのが弁護人の義務ですのでこのような批判は当たりません。誤解されないよう,念のため付け加えておきます。

                             2010年11月記
                               須 見 健 矢

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