わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

5人の弁護士が、新しい法律や身近で起きた事、感じた事をご紹介します

裁判員制度って,何!

 皆さん,裁判員制度って知ってますか。町にもポスターがたくさん貼られていますね。市民の皆さん(6名)が裁判官(3名)と一緒になって,刑事裁判に関与し,有罪,無罪を決める制度で,いよいよ2009年から始まります。
 どうして,市民が刑事裁判に参加しないといけないの。扱うのは殺人や強盗事件など重罪事件で,そんな事件を本当に市民が有罪無罪を判断できるの。仕事のある人は仕事を休むの。家庭の都合がある人はどうするの。支障が出たときはどうするの。いろいろ心配がありますね。
 でも,この制度ができたのはもちろん理由があります。皆さんは,周防正行監督の痴漢事件を扱った映画「それでもぼくはやっていない」をご覧になったことがありますか。
 日本の刑事裁判は,これまでずっとプロの職業裁判官が行ってきました。弁護士の立場からみるとよく分かるのですが,刑事裁判官の意識は,起訴されたら有罪という感覚が本当に強いのです。検察官に仲間意識をもち,被告人は犯罪者という意識で,どうしても治安を護ろうとする目で被告人を見がちになります。そこにえん罪が発生する温床があります。
 皆さんは「無罪の推定」という考えを知ってますか。「疑わしきは被告人の利益に」という考えと同じです。刑事裁判では,被告人は起訴されても犯罪を犯していないという前提で見て,検察官が有罪を疑いのない程度に証明しなければ無罪にするという原則があります。しかし,実際には日本の裁判はこうなっていません。これを変えようとするのが裁判員制度です。市民の皆さんにとっては初めての事件となりますから,新鮮な目で慎重に証拠を見て有罪か無罪かを判断できます。この点は職業裁判官よりも優れています。また,6名の市民の皆さんの多様な社会的経験が真実を見抜く力を持っている,こうした力を信頼しましょうということなのです。こうなれば,「裁判は,お上にまかせればいい」という気持ちも変わってゆきますね。
 皆さんを長く裁判に拘束できませんから(裁判は3日4日,長くて7日程度といわれています),短い期間に裁判を行うために,強制された自白調書の違法証拠を資料として使わないよう警察,検察などの捜査側の取調をテープやビデオに撮ろうということが始まっています。それによって嘘の自白が生まれないようにしようという効果が期待されています。
 皆さんの市民感覚を大切にするということですから,一緒に参加して審理する裁判官(3人)の意見だけに影響されては意味がありません。裁判員となる市民(6名の人です)一人一人の票の重さは裁判官と同じです。このことをよく理解して参加して下さい。
 扱うのは殺人や強盗事件など重罪事件ですから精神的な負担もあります。そのための心理的ケヤーも必要です。勤務会社の理解,協力も必要となり,そのための制度的な仕組みを作ることも必要です。家庭での条件作りも考えないといけません。日当が一日1万円以内で出ますが,どうしても休めない仕事や用事のある人は辞退できる保障も必要です。日本にはまだ死刑制度がありますから,絶対に死刑は認めないという信念の人は裁判員に選ばれないこともあります。
 ともかく,大きな改革です。これからも新聞などの記事に注目して下さい。

                                  森田太三

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