わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

5人の弁護士が、新しい法律や身近で起きた事、感じた事をご紹介します

新しい成年後見制度について

1 成年後見制度とは
 成年後見制度とは、平成12年4月から始まった制度です。
 「精神上の障害により判断能力が不十分な人」について保護する制度で、契約の締結等を代わって行う代理人など本人を援助する者を選任したり、本人が誤った判断に基づいて契約を締結した場合にそれを取り消すことができるものです。

2 これまでの成年後見制度
 これまでの成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、禁治産と準禁治産の2つの類型が設けられていました。
 禁治産は、心神喪失の常況にある者(自己の財産を管理・処分することができない程度に判断能力が欠けている者)を、準禁治産は、心神耗弱者(自己の財産を管理、処分するには常に援助が必要である程度の判断能力しか有しない者)を対象とし、それぞれの判断能力の程度に応じて保護の内容が法律(民法)で定められていました。
 しかし、この制度は、判断能力の不十分さが心神耗弱に至らない比較的軽度な者を対象としていませんでした。また、制度が硬直的であるなど利用しにくい面がありました。

3 新しい成年後見制度
 新しい成年後見制度は、これまでの禁治産、準禁治産の制度を改めた「法定後見」(民法で定められます。)と、新しく作られた「任意後見」(任意後見契約に関する法律で定められます。)があります。
 成年後見制度は、痴呆症高齢者、知的障害者精神障害者等精神上の障害により判断能力が不十分な人を対象とします。すなわち、身体機能に障害があるため一人では十分に財産上の行為を行うことができなくても、判断能力は十分ある人は対象者から除かれます。

4 後見の概要
 後見の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(改正後の民法7条)です。これは、自己の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている人、すなわち、日常的に必要な買い物も自分ではできず誰かに代わってやってもらう必要がある程度の人です。後見が開始されると、成年後見人が選任され、成年後見人は、本人の行為全般について、本人を代理することができ、本人がした行為を取り消すことができます。
 後見においては、本人がした行為は取り消すことができますが、日用品の購入等日常生活に関する行為については取り消すことができないとされています(改正後の民法9条)。

5 保佐の概要
 保佐の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者」(改正後の民法11条)です。これは、判断能力が著しく不十分で、自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要な程度の人、すなわち、日常的に必要な買い物程度は単独でできますが、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等、重要な財産行為は自分ではできないという程度の判断能力の人のことです。ただし、自己の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている者は、保佐でなく、後見の対象者となります。
 保佐が開始されると、保佐人が選任され、本人が行う重要な財産行為については、保佐人の同意を要することとされます。本人又は保佐人は、本人が保佐人の同意を得ないで行った重要な財産行為を取り消すことができます。また、必要があれば、家庭裁判所は、保佐人に本人を代理する権限を与えることができます。

 保佐人に同意権・取消権が与えられる重要な財産行為にはどんなものがあるでしょうか。
① 元本を領収し又は利用すること、
② 金銭を借り入れたり保証をすること、
③ 不動産又は重要な動産(自動車等)の売買等をすること、
④ 訴訟行為をすること、
⑤ 贈与、和解又は仲裁契約をすること、
⑥ 相続の承認若しくは放棄又は遺産分割をすること、
⑦ 贈与若しくは遺贈を拒絶し、又は負担付きの贈与若しくは遺贈を受諾すること,
⑧ 新築、改築、増築又は大修繕をすること、
⑨ 建物については3年、土地については5年を超える期間の賃貸借をすることなどがあります(改正後の民法12条1項)。
 したがって、これらのすべてについて自分ではできず、常に援助が必要であるという程度の判断能力の者が保佐の対象者とみることができます。その代表的なものは、前記のとおり、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等ですから、これらについて常に援助が必要かどうかが、保佐に該当するか、あるいは保佐に至らない程度であるかを判断する指標とすることができるでしょう。

6 補助の概要
 補助の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者」(改正後の民法14条1項)です。これは、判断能力が不十分で、自己の財産の管理、処分するには援助が必要な場合があるという程度の人、すなわち、重要な財産行為は、自分でできるかもしれないが、できるかどうか危ぐがあるので、本人の利益のためには誰かに代わってやってもらった方がよい程度の人をいいます。
 補助が開始されると、補助人が選任されて、補助人に本人を代理する権限や、本人が取引等をするについて同意をする権限が与えられます。代理権や同意権の範囲・内容は、家庭裁判所が個々の事案において必要性を判断した上で決定します。補助人に同意権が与えられた場合には、本人又は補助人は、本人が補助人の同意を得ないでした行為を取り消すことができます。
 補助を開始するに当たっては、本人の申立て又は同意が必要とされています。補助の対象者は、後見及び保佐の対象者と比べると、不十分ながらも一定の判断能力を有しているので、本人の自己決定を尊重する観点から、本人が補助開始を申し立てること又は本人が補助開始に同意していることを必要としたものです。この本人の同意は、家庭裁判所が確認します。これに対し、後見及び保佐においては、これらを開始するに当たり、本人の同意は要件とされていません。

7 任意後見の概要
 任意後見は、原則として、精神上の障害により判断能力が低下した場合に備えて本人があらかじめ契約を締結して任意後見人となるべき者及びその権限の内容を定めて、本人の判断能力が低下した場合に家庭裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任し契約の効力を生じさせることにより本人を保護するというものです。家庭裁判所が任意後見契約の効力を生じさせることができるのは、本人の判断能力が、法定後見でいえば、少なくとも補助に該当する程度以上に不十分な場合です(補佐、保佐、後見のいずれに該当する場合も任意後見契約の効力を生じさせる事ができます。)。任意後見人には、契約で定められた代理権のみが与えられます。
 任意後見においても、本人の自己決定を尊重する観点から、契約の効力を生じさせるに当たって本人の申立て又は同意が必要とされており、家庭裁判所がこの本人の同意を確認します。

8 裁判所による監督
 後見、保佐又は補助が開始された場合、家庭裁判所は、後見人、保佐人又は補助人に対し、その事務について報告を求めたり、本人の財産の状況を調査することができます。また、その事務について必要な処分を命じることや、後見監督人等を選任して監督に当たらせることができます。また、後見人等が不正行為をするなど、その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は後見人等を解任することができます。
 任意後見では、家庭裁判所は、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて任意後見人の事務を監督することになりますが、後見等の場合と同様に、任意後見人にその任務に適しない事由があるときは、任意後見人を解任することができます。
 こうした監督を通じて、後見等の事務が適正に行われることが担保とされています。

9 成年後見制度における鑑定
 これまでの成年後見制度では、禁治産及び準禁治産のいずれについても、鑑定をしなければならないものとされており、新しい成年後見制度でも、これまでの禁治産及び準禁治産に相当する後見及び保佐では、原則として鑑定が必要であるとされています。補助及び任意後見については、鑑定を必ずしなければならないものとはせず、医師の診断書で足りるとされています。

 以上、新しい成年後見制度を説明しました。申請書類は家庭裁判所いけば入手できます。また、「証明書」なども必要ですがそれは法務局民事行政部後見登録課におけば入手できます。
 「補助」の制度は本人の意思を尊重しながら柔軟な運用ができますし、現在問題となっているような言われるままに高額の品を買ったり借金したりする癖のある方 (但し、精神上の障害により判断能力が不十分な人である必要があります)の家族の方が将来の問題発生を予防したいと考えられているケースもあります。
 有効にこの制度をご利用下さい。

                                  森田太三

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