わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

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遺言書は役に立つか

 最近は、「遺言書の勧め」が目につきます。基本的に「良いことだ」とする論調ですね。信託銀行の「業務推進」の面もあるでしょう。「相続人間の争いを予防できる」ので良いと言う人が多いように思います。
 水をさすようですが、「そうでもない」というのが私どもの実感です。弁護士の業務として公正証書遺言・自筆証書遺言どちらも、よく作成もしますし、お目にもかかります。実は、争いは遺言書があってもよく起きるのです。却って、争いが大きくなることもあるくらいです。
 何故か、基本は、相続人が納得しない場合が相当数あるからです。そもそも、遺言書が本当に役に立つケースは限定されていると考えるべきだ、というのが私の意見です。
 それはおかしい、と首をかしげる方も多いでしょう。勿論、役に立っている場合も当然あるでしょう、ですが、「遺留分」という制度が一方で認められているのです。遺留分とは、推定相続人に対し(有効な遺言書があっても)一定の取り分を認めるものです。ですから、相続人間での対立があれば、遺留分をめぐる争いが必ず生ずるのです。つまり、遺言書は「争い自体」を完全になくしてしまえる制度ではないのです。
 但し、逆に言うと、遺留分を有する人がない場合は確かに非常に有効です。それは、「笑う相続人」と呼ばれるケースで、夫婦に子供のない場合です。うっかりする人が非常に多いのですが、例えば夫が死亡した場合、妻がすべて貰えるわけではなく、夫の両親(両親が死亡している場合は夫の兄弟・姉妹)に権利が生じます。ですが、夫の両親死亡の場合、残された兄弟・姉妹は「遺留分」を持たないのです。従って、夫婦が「相互に」遺言書を作って、「配偶者にすべて与える」としておけば、義理の両親が非常に長生きなさるケースを除き、慌てなくてすみます。
 では、そのほかの場合は無意味かというと、そうでもない。取り分が相当違ってきますし、ある特定の不動産を特定の相続人に渡すなどの利用方法があり、それらの限度では、やはり大きく意味を持ちます。しかし、一方で、遺言によってはずされた相続人は、気持ちは良くありません。従って、この側面を考えると、遺言が存在するゆえに、かえって相続人間で溝ができる可能性は高いのです。
 あと、実務的には、「遺言執行者」の問題が出て来ます。不動産について、遺言で取得した人が単独で登記できるように、遺言書の文言が整備されてきていますので、遺言執行者の選任は重要度が低下しています。ですが、様々な問題があるため選任が避けられないことも多いのです。例えば株式の分割などを考えてみてください。ところが、相続人と遺言執行者の意見が対立すると、ストップがかかったような具合になります。長期化せざるを得なくなります。時間がかかる場合、それなら、遺言書がなくても同じだ、となりかねないのです。
 ですから、ないほうがすっきりする、却って話し合いの邪魔だ、と考えるかどうかです。ケース・バイ・ケースでしょうが、最後は個人の価値観にかかります。皆さんはどう思われますか。
                              平成24年11月

                                  小林政秀

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