わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

5人の弁護士が、新しい法律や身近で起きた事、感じた事をご紹介します

死刑制度について ~袴田事件再審開始決定~

 平成26年3月27日、静岡地裁は、袴田事件の再審開始を決定し、袴田氏を釈放しました。
 検察は3月31日に即時抗告しましたが、静岡地裁決定によれば、犯人のものとされた衣類に残る血痕は、袴田氏のDNAとも被害者のDNAとも一致せず、ズボンのサイズも袴田氏がはけない細身のものだったことが判明、犯人のものとされた衣類は捜査機関によってねつ造された疑いが相当程度あるとのこと。冤罪であることはほぼ間違いないでしょう。一日も早く再審が開始され、袴田氏が無罪判決を勝ち取る日がくることを祈ります。
 袴田氏は現在78歳、釈放された姿に、逮捕されたとき30歳だったプロボクサーの面影はありません。死刑判決確定から33年間、いつ死刑執行されるかわからない恐怖の日々を経て、袴田氏は精神を病んでしまったとも報じられています。
 改めて死刑制度の恐ろしさを考えさせられました。
 皆さんは死刑制度に賛成ですか?
 死刑制度についての最近の世論調査では8割以上の方が死刑制度に賛成だと回答しています(平成21年の調査では過去最高の85.6%)。最近の厳罰化の風潮もあるのでしょうか。
 しかし、人が裁く以上、誤判のリスクをゼロにはできません。
 アメリカではDNA鑑定によって冤罪が明らかになった死刑囚が100人以上いたそうです。
 日本でも、これまでに死刑判決確定後、数十年経過してから再審が開始され、冤罪が明らかになった事件は4件、袴田事件で無罪が確定すれば5件目となります。他にも冤罪を訴えていた死刑囚がいることを考えると、無実の人が死刑執行されてしまったケースがあるかもしれません。
 死刑が執行された後に冤罪が判明しても、取り返しがつきません。
 死刑が執行されなくても、無実の人が死刑執行の恐怖に耐えながら過ごす日々の苛酷さは想像を絶するものがあります。精神を病んでしまうのも当然です。
 私は、冤罪が起こらないとしても、人の更生可能性を完全否定する死刑制度には反対の立場ですが、誤判のリスクをゼロにはできない以上、死刑制度は無実の人を国家が殺してしまう可能性があるのだということを、多くの人に考えてもらいたい、そして、死刑廃止に向けた議論につなげていただきたいと思います。

                          2014年3月記 弁護士 酒井桃子

 

近所で火事が起きたら?

 平成26年正月に、有楽町駅近くの線路沿いから火事が出て、新幹線が遅れました。私も大変迷惑した一人です。

 ところで、近所で火事が起き、皆さんもなんらかの被害を受けたとしたらどうなるかご存じですか。「火事を起こした人に賠償してもらえる」まずはそう考えますよね。ところが、そう簡単にはいかないのです。
 明治32年に「失火ノ責任ニ関スル法律」というのが出来ています、それがまだ有効です(少なくともそう考えられています)。そこでは、「重過失の場合だけ責任を負う」となっています。「重過失とはなんだ」ということになりますが、通常なら過失とされる「軽過失を除く」という話なのです。よく分かりませんね。それも当然でして、結局、個々に判断するしかないのです。例えば、煙草を消さなかったとすると、「多分」重過失と私は思いますが、必ずそうなるかと言われると断言はできません。
 よく分からないということは、結局、話し合いが無理なら、訴訟をやってみないと決着がつかないということになるのです。あと、火事を出した人にお金がなければ、勝訴しても「取れません」ご注意ください。こう書くと「そんなばかな」と思われる人も多いでしょう。でも、上記の法律は木造建築が多く、火事が多い国であったという事情を反映しているわけです。現代では、もう廃止すべき法律かもしれません。
 それでは、「やはり火災保険を掛けておこう」ということにはなりますね。損害保険というジャンルですが、これも意外にも結構な縛りがあります。「万が一に備えて、多額の保険を掛けておいたぞ」と思って請求しても、なんだかんだと保険会社から面倒なことを言われるはずです。それ自体は、まあやむをえないでしょう。実は、いろんな決まりがあります、例えば「焼け太りを許さない」という原則があるのはご存じですか。最近では、意外に知られていないのではないでしょうか。
 言葉でいうと「被保険利益がないものはだめ」「利得禁止の原則」というものがあります。やはりなんのことか分かりませんですね。前者は例えば、親の遺品であって、自分だけに価値のあるものとか、密輸品とかのことです。後者は、例えば、500万くらいしか価値のない古い家屋に、1億円の保険を掛けても、500万しか払わないよ、ということです。こう言われると、なんとなく理解できますね。つまり、時価が原則なのです。もっとも、「特約」があれば、それによって、再調達価格が補償されます。ですから、保険に入る時には、「特約」について話合い、内容を充分確認すべきです。このように、火災保険も、実際には意外に難しいのです、例えば中古の機械類ではどうでしょう。なかなかはっきりしません。やはりケースバイケースです。せめて、保険に入るときに、細かく・具体的に対象をはっきりさせておくべきです。「・・・・一式」となると危ういですよ。
 さらに、保険法13条には「損害の発生・拡大の防止義務」なんていうのもあるのです。まあこれは、「消火には協力しろよ」という意味位で理解しておいてください。しかも、「告知義務違反」なんてのもあるんです。「聞かれたのに、ちゃんと答えなかったので支払わないぞ」という訳です。あと、「延焼を防ぐために、家を一部壊したらどうか」という問題もあります。これは、「消防の活動のために必要な処置」と認められれば、抽象的には保険金が出るはずですが、やはり、保険契約時にちゃんと確認しておかなくてはいけません。
 という訳で、火事の後始末は、意外にも難しい問題なのです。法律相談くらいは必要だと考えておいてください。

                                  小林政秀

住民票等について被害者保護のための支援措置の対象が拡大

 2006年7月以降、DV(配偶者暴力)の被害者やストーカー被害者については、加害者に避難先を知られないようにして被害者を保護するために、住民票等の閲覧を制限する支援措置が実施されてきました。

 しかし、児童虐待の場合は同様の制度がなく、被虐待児を保護しても、虐待親が避難先を探索して連れ戻す恐れがあるような場合には、住民票を移せないという問題がありました。
 そこで、2012年9月26日、総務省は、「児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受けるおそれがあるもの又は監護等を受けることに支障が生じるおそれがあるもの」について支援措置の対象に加える旨を各自治体に通知し、同10月より実施されることになりました。
 また、上記総務省の通知では、DV・ストーカー行為等の被害者、児童虐待の被害者に準ずる者についても、市町村長の判断で支援措置の対象とすることができることが明示されました。これにより、具体的には、配偶者ではない交際相手から暴力を受けているケース(ストーカー行為のないもの)、児童虐待の被害者が18歳を越えたケース、児童ではない者が虐待を受けているケースなどでも、住民票等の閲覧を制限する支援措置を利用できるようになりました。
 もっとも、上記支援措置をとれば問題が解決するというものではありません。全面的に解決するためには法的措置も視野に入れて検討すべきです。
 被害に遭われた場合には、まず弁護士にご相談ください。
                                2013年3月記
                                 酒井 桃子

遺言書は役に立つか

 最近は、「遺言書の勧め」が目につきます。基本的に「良いことだ」とする論調ですね。信託銀行の「業務推進」の面もあるでしょう。「相続人間の争いを予防できる」ので良いと言う人が多いように思います。
 水をさすようですが、「そうでもない」というのが私どもの実感です。弁護士の業務として公正証書遺言・自筆証書遺言どちらも、よく作成もしますし、お目にもかかります。実は、争いは遺言書があってもよく起きるのです。却って、争いが大きくなることもあるくらいです。
 何故か、基本は、相続人が納得しない場合が相当数あるからです。そもそも、遺言書が本当に役に立つケースは限定されていると考えるべきだ、というのが私の意見です。
 それはおかしい、と首をかしげる方も多いでしょう。勿論、役に立っている場合も当然あるでしょう、ですが、「遺留分」という制度が一方で認められているのです。遺留分とは、推定相続人に対し(有効な遺言書があっても)一定の取り分を認めるものです。ですから、相続人間での対立があれば、遺留分をめぐる争いが必ず生ずるのです。つまり、遺言書は「争い自体」を完全になくしてしまえる制度ではないのです。
 但し、逆に言うと、遺留分を有する人がない場合は確かに非常に有効です。それは、「笑う相続人」と呼ばれるケースで、夫婦に子供のない場合です。うっかりする人が非常に多いのですが、例えば夫が死亡した場合、妻がすべて貰えるわけではなく、夫の両親(両親が死亡している場合は夫の兄弟・姉妹)に権利が生じます。ですが、夫の両親死亡の場合、残された兄弟・姉妹は「遺留分」を持たないのです。従って、夫婦が「相互に」遺言書を作って、「配偶者にすべて与える」としておけば、義理の両親が非常に長生きなさるケースを除き、慌てなくてすみます。
 では、そのほかの場合は無意味かというと、そうでもない。取り分が相当違ってきますし、ある特定の不動産を特定の相続人に渡すなどの利用方法があり、それらの限度では、やはり大きく意味を持ちます。しかし、一方で、遺言によってはずされた相続人は、気持ちは良くありません。従って、この側面を考えると、遺言が存在するゆえに、かえって相続人間で溝ができる可能性は高いのです。
 あと、実務的には、「遺言執行者」の問題が出て来ます。不動産について、遺言で取得した人が単独で登記できるように、遺言書の文言が整備されてきていますので、遺言執行者の選任は重要度が低下しています。ですが、様々な問題があるため選任が避けられないことも多いのです。例えば株式の分割などを考えてみてください。ところが、相続人と遺言執行者の意見が対立すると、ストップがかかったような具合になります。長期化せざるを得なくなります。時間がかかる場合、それなら、遺言書がなくても同じだ、となりかねないのです。
 ですから、ないほうがすっきりする、却って話し合いの邪魔だ、と考えるかどうかです。ケース・バイ・ケースでしょうが、最後は個人の価値観にかかります。皆さんはどう思われますか。
                              平成24年11月

                                  小林政秀

福島第1原発事故の現地訪問相談会を担当して 

 2011年3月11日の大震災,それに続く福島原発事故は一年たっても大きな傷跡を刻している。復旧から復興へ,その道のりは険しいがこの国を挙げての取組みが再生日本の礎になることを心から祈る。

 昨年,夏に弁護士仲間と岩手県大槌町にボランティェア活動に行き,本年3月には南相馬市仮設住宅,7月には福島駅付近の会場での原子力損害賠償支援機構が開催する現地法律相談に参加した。
 東京電力が独自に行っている賠償請求に関する不満,文科省が設置している原子力損害賠償紛争審査会(ADR)への説明と具体的な被害相談が行くたびに段々と具体手な内容となってきている。
 東電の書式による賠償請求は,加害者側の自主的な賠償でありどうしても一定の限界がある。そこで満足できない相談が,私たち弁護士が担当する賠償支援機構が開催する現地訪問相談に寄せられる。
 妻が鬱になって日々苦しい生活を送っている。介護施設に入った母親が施設の緊急移動で2カ月後に急逝した。母親が地震で病院に入院した後,原発事故で病院が閉鎖されることになり,その後心不全で死亡した。住宅ローンを支払っているが避難地域での見直しがはっきりする間ローンを支払い続けた方が良いのか,ストップして次の移転先を探した方がいいのか迷っているなど。東電の書式では対応できない新たな問題が具体的に生じ始めている。
 東北の弁護士だけでなく,東京の弁護士もできるだけこの支援活動に参加してゆきたい。弁護士の役割をあらためて考えさせてくれる場に身を置く時代である。

                          2012年7月 森田太三

おいしい話はありません

 最近、未公開株、匿名組合や何々組合への出資名目での被害が目に余ります。

そこで、警告のために、標語を考えました。といっても、平凡なことです。多いとかえって駄目なので、一つにしました。
 簡単です、「ハンコを押すな」これだけです。なんのことはない、昔から伝えられてきたことです。「金をだすな」でも良いのですが、これだと、訳がわからなくなります。
 少し無愛想過ぎるかもしれませんので、実践的な標語?を一つ、それは、「免許証のコピーを貰え」です。
 何故、こんなことを改めて強調するかと言うと、被害が多すぎるのですが、大きな特徴に、「名前、住所がすべて嘘」というケースが非常に多いからです。見せて貰うのは失礼だ、と思ってはいけません。
 社会的信用の不十分な状況、つまり、初めてだとか、広告を見ただけ、とかパンフを貰っただけとか、電話で話して訪問してきただけとか、そういう場合には、お金を出してくれという側が、そのような身分証明を行うことは義務だ、と思います。というより、義務だとする社会通念を形成すべきでしょう。それほど、目に余ります。
 なお、身分証明を要求することは、交渉である以上違法ではありません。もちろん、「免許証を見せたから、契約しろ」という話にのる必要もありません。これは、法律上は当然のことです、くれぐれも、間違えないようにしてください。
 ところで、被害にあう話は、ほぼすべて、「いい金利がつきます、儲かります」というものです。外国での事業展開だとかFXに投資する、とか極秘情報とか、上場確実とか、まあいろいろです。しかし、断言しますが、「おいしい話はありません」。正確に申し上げますと、仮にあっても、絶対に皆さんのところには来ません。
 考えてみてください、皆さんが、これから上場しようとする業績のよい企業のオーナーだとして、手許の株を見知らぬ人に買わせますか?また、おいしい話があったとして、それを他人に持って行きますか?特別な関係の人か、おいしい話を実現するために必要な力を持っている人かどちらかしかありえません。御自分がそのような立場であれば、このホームページは読んでないでしょう。
 なにを言っている、という人が出るかもしれません。「俺は、証券会社から抽選で、おいしい銘柄、おいしい商品を貰ったことがある。」というわけです、しかし、いいですか、実際に貰っているのは「証券会社」であって、あなたではありません。証券会社は、あなたに取引をしてもらうための、目玉グッズとして入手して、あたなたに渡しているにすぎないのです。証券取引の相談や訴訟も随分やりましたが、おいしい話があった人は必ず、通算で大損しています。儲けている人もいるのかもしれませんが、私は知りません。仮に儲けている人がいるとしますと、断言しますが、その人は、「おいしい話」を冷徹に評価し溺れない人です。そういう人はそもそも、徹底したプロですから、他人が注意する必要はありません。これを読んでいるあなたのことでは無いのです。
 どうか、引っかからないように! どうか、ハンコを押さないように!

                                  小林政秀

裁判員裁判を経験して

 最近,とある性犯罪の事件で初めて裁判員裁判の弁護人を経験しました。その雑感です。

①連日開廷は大変
 従来の刑事裁判では,連日開廷ではなく,1週間とか1ヶ月とか,ある程度の期間をおいて審理をしていました。弁護人もその期日の間に,いろいろと準備ができます。ところが,裁判員裁判では,被告人が罪を認めている事件,事実関係に争いがある事件,どんな事件でも連日開廷が基本です。一度,公判が始まると,準備する時間というのはほとんどなく,最初から最後(判決)までノンストップであっと言う間に裁判が進むという感覚です。私の場合は,2日間だけの連日審理でしたが,審理期間中は息をつく暇もないほど忙しさを感じます。これが5日間とか10日間とかにわたれば,間に休日が入っても相当な苦労を要するでしょう。もちろん,裁判官,検察官もそうだと思いますし,裁判員の方々の心理的な負担も大変なものだと思います。
 そして,弁護人の立場からは,何より被告人の権利保護に不安を持たざるを得ないのが正直な実感です。迅速な裁判というのは,被告人や被害者その他関係者にとって重要な利益ではありますが,拙速な審理によって誤った事実認定や不当な量刑がなされないように努めなければならいのは当然のことです。

②公判前整理手続き
 このように連日開廷になりますと,裁判前の準備が重要になってきます。そこで,裁判員裁判の対象事件では,必ず,事前に「公判前整理手続き」という手続きが行われます。なお,公判前整理手続きは,裁判員裁判対象事件以外の複雑な事件でも行われることはありますが,裁判員裁判では必須とされています。
 公判前整理手続きでは,①検察官,弁護人双方の主張を整理し,②裁判での争点を確認し,③どのような証拠を出すか確認したうえ,④裁判当日のスケジュールを決めるということが主要な目的です。公判前整理手続きには,裁判員は加わらず,裁判官のみで進められます。私の担当した事件では,事実関係に一部争いがありましたが,約4ヶ月間の間に5回の期日が開かれました。
公判前整理手続きの過程では,検察官が法廷に出す予定の証拠は全て弁護人に開示されますし,出す予定のないものでも,例えば被告人の取り調べの際の供述調書など,法律上の要件があれば,検察官手持ちの証拠が弁護人に開示されます。そして,証拠として必要のないものや信用できないものなどについては,証拠にすることに不同意(反対)とか異議ありとの意見を述べ,証拠として用いられないようにします。
 そして,互いに主張・反論や証拠を検討したうえで,審理に必要な時間を見積もり,当日のスケジュールを作成します。このスケジュールは,証拠書類の取り調べや証人尋問等の予定開始時刻,予定終了時刻,休廷時間等分単位で細かく決められます。
 こうして,公判では,争点に絞った充実した審理をすることが期待されています。
 なお,検察官と弁護人は証拠の具体的内容を公判前に知ることになりますが,裁判官は,公判が開かれる前には証拠の内容を知ることはできません。
③わかりやすい裁判を目指して
 裁判員裁判では,職業裁判官3人に加え,原則として裁判員6人が審理に加わります。
法律家(裁判官,検察官,弁護士)だけが関与する従来の裁判では,法律の専門用語や独特な,あるいは難解な言い回しが多用されています。また,いろいろな書面が多用されています。法律家同士では,正確にコミュニケーションがとれるし,その方がかえってわかりやすいところもあり,また長い書面を読んで理解することにもそれなりに慣れているため,あまり問題がありませんでした。しかし,裁判員裁判では,法廷での口頭でのやりとりを見聞きして判断するのが基本です。
 裁判員の方には,口頭で例えば「誤想過剰防衛」などと言われても普通は何のことかわからないと思いますし,「強盗罪の暴行とは被害者の犯行を抑圧するに足る程度の暴行である。」と言われても,意味は分かるかも知れませんが,その場で理解するのは難しいのではないでしょうか。
 そこで,弁護人も,裁判員の方にも自分たちの主張が理解してもらえるように,わかりやすい言葉を用いて説明する・・・ということになるのですが,これがなかなか難しい。普段,書き言葉に慣れ親しんでいる身には,口頭でわかりやすい言葉でというのは意外と難しいと実感しました。また,口頭での説明以外にも,パソコンでプレゼンのソフトを使うとか,ホワイトボードを使うとか,理解を助けるための補助的ツールを使うことについて,弁護士会ではいろいろと研究がなされています。今回私の担当した事件では,主張の要点を箇条書きにしてまとめたペーパーを配布するという方法でやってみましたが,今後も試行錯誤が続くと思います。

④性犯罪と裁判員裁判
 強姦,強制わいせつなどの性犯罪の場合,被害者のプライバシーへの配慮から,被害者の氏名を秘匿したり(法廷では「被害者Aさん」などと呼ぶ。),被害者や被告人の供述調書の朗読の際,実際の犯行の生々しい部分については声に出さないで,裁判官,裁判員に黙読してもらったり,証人として尋問をする場合には別室で行ったりするなどの措置がとられています。
 また,被害者は,法廷に出席して情状についての意見を述べ,又は出席するかわりに書面を提出して検察官に法廷で読み上げてもらうことができます(意見陳述)。その内容は,事実関係についての証拠にはできませんが,情状に関する証拠にすることはできます。
更に,被害者は,積極的に,自らあるいは弁護士に委任して裁判に参加し,被告人に質問をしたり,量刑に関する意見を述べたりすることが可能です(被害者参加)。
 私の担当した事件では,被害者(2名)の方々いずれも書面を提出して厳罰を求めていました(女性の検察官が法廷で代読)。このことが,どの程度裁判官,裁判員の心証に影響を与えたかは分かりませんが,世間的に見て,これまでの性犯罪に対する従来の量刑は軽いと言われており,裁判員裁判では従来の相場より重くなることが多いようです。私の担当した事件でも,判決で,はっきりと「従来は軽すぎた」との指摘がされていました。今後もこの傾向は続くと思います。

⑤最後に
 私の経験した事件では,事実関係に一部争いがあったのですが,被告人の主張が認められました。そもそも裁判員制度が導入されたのは,刑事裁判に一般市民の健全な常識を反映させるためでした。私としては,今回,常識的な正しい事実認定が行われたものと思います。
 裁判員裁判では,特定の重大な犯罪についての弁護をすることもあり,弁護人に対し「こんな悪い奴の味方をするのはけしからん」と世間から非難がなされることもありえますが,えん罪を防ぎ,恣意的な裁判がなされないよう被告人の権利を護るのが弁護人の義務ですのでこのような批判は当たりません。誤解されないよう,念のため付け加えておきます。

                             2010年11月記
                               須 見 健 矢

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