わかばの風法律事務所 弁護士のBlog

東京都新宿区にある法律事務所

5人の弁護士が、新しい法律や身近で起きた事、感じた事をご紹介します

裁判員裁判を経験して

 最近,とある性犯罪の事件で初めて裁判員裁判の弁護人を経験しました。その雑感です。

①連日開廷は大変
 従来の刑事裁判では,連日開廷ではなく,1週間とか1ヶ月とか,ある程度の期間をおいて審理をしていました。弁護人もその期日の間に,いろいろと準備ができます。ところが,裁判員裁判では,被告人が罪を認めている事件,事実関係に争いがある事件,どんな事件でも連日開廷が基本です。一度,公判が始まると,準備する時間というのはほとんどなく,最初から最後(判決)までノンストップであっと言う間に裁判が進むという感覚です。私の場合は,2日間だけの連日審理でしたが,審理期間中は息をつく暇もないほど忙しさを感じます。これが5日間とか10日間とかにわたれば,間に休日が入っても相当な苦労を要するでしょう。もちろん,裁判官,検察官もそうだと思いますし,裁判員の方々の心理的な負担も大変なものだと思います。
 そして,弁護人の立場からは,何より被告人の権利保護に不安を持たざるを得ないのが正直な実感です。迅速な裁判というのは,被告人や被害者その他関係者にとって重要な利益ではありますが,拙速な審理によって誤った事実認定や不当な量刑がなされないように努めなければならいのは当然のことです。

②公判前整理手続き
 このように連日開廷になりますと,裁判前の準備が重要になってきます。そこで,裁判員裁判の対象事件では,必ず,事前に「公判前整理手続き」という手続きが行われます。なお,公判前整理手続きは,裁判員裁判対象事件以外の複雑な事件でも行われることはありますが,裁判員裁判では必須とされています。
 公判前整理手続きでは,①検察官,弁護人双方の主張を整理し,②裁判での争点を確認し,③どのような証拠を出すか確認したうえ,④裁判当日のスケジュールを決めるということが主要な目的です。公判前整理手続きには,裁判員は加わらず,裁判官のみで進められます。私の担当した事件では,事実関係に一部争いがありましたが,約4ヶ月間の間に5回の期日が開かれました。
公判前整理手続きの過程では,検察官が法廷に出す予定の証拠は全て弁護人に開示されますし,出す予定のないものでも,例えば被告人の取り調べの際の供述調書など,法律上の要件があれば,検察官手持ちの証拠が弁護人に開示されます。そして,証拠として必要のないものや信用できないものなどについては,証拠にすることに不同意(反対)とか異議ありとの意見を述べ,証拠として用いられないようにします。
 そして,互いに主張・反論や証拠を検討したうえで,審理に必要な時間を見積もり,当日のスケジュールを作成します。このスケジュールは,証拠書類の取り調べや証人尋問等の予定開始時刻,予定終了時刻,休廷時間等分単位で細かく決められます。
 こうして,公判では,争点に絞った充実した審理をすることが期待されています。
 なお,検察官と弁護人は証拠の具体的内容を公判前に知ることになりますが,裁判官は,公判が開かれる前には証拠の内容を知ることはできません。
③わかりやすい裁判を目指して
 裁判員裁判では,職業裁判官3人に加え,原則として裁判員6人が審理に加わります。
法律家(裁判官,検察官,弁護士)だけが関与する従来の裁判では,法律の専門用語や独特な,あるいは難解な言い回しが多用されています。また,いろいろな書面が多用されています。法律家同士では,正確にコミュニケーションがとれるし,その方がかえってわかりやすいところもあり,また長い書面を読んで理解することにもそれなりに慣れているため,あまり問題がありませんでした。しかし,裁判員裁判では,法廷での口頭でのやりとりを見聞きして判断するのが基本です。
 裁判員の方には,口頭で例えば「誤想過剰防衛」などと言われても普通は何のことかわからないと思いますし,「強盗罪の暴行とは被害者の犯行を抑圧するに足る程度の暴行である。」と言われても,意味は分かるかも知れませんが,その場で理解するのは難しいのではないでしょうか。
 そこで,弁護人も,裁判員の方にも自分たちの主張が理解してもらえるように,わかりやすい言葉を用いて説明する・・・ということになるのですが,これがなかなか難しい。普段,書き言葉に慣れ親しんでいる身には,口頭でわかりやすい言葉でというのは意外と難しいと実感しました。また,口頭での説明以外にも,パソコンでプレゼンのソフトを使うとか,ホワイトボードを使うとか,理解を助けるための補助的ツールを使うことについて,弁護士会ではいろいろと研究がなされています。今回私の担当した事件では,主張の要点を箇条書きにしてまとめたペーパーを配布するという方法でやってみましたが,今後も試行錯誤が続くと思います。

④性犯罪と裁判員裁判
 強姦,強制わいせつなどの性犯罪の場合,被害者のプライバシーへの配慮から,被害者の氏名を秘匿したり(法廷では「被害者Aさん」などと呼ぶ。),被害者や被告人の供述調書の朗読の際,実際の犯行の生々しい部分については声に出さないで,裁判官,裁判員に黙読してもらったり,証人として尋問をする場合には別室で行ったりするなどの措置がとられています。
 また,被害者は,法廷に出席して情状についての意見を述べ,又は出席するかわりに書面を提出して検察官に法廷で読み上げてもらうことができます(意見陳述)。その内容は,事実関係についての証拠にはできませんが,情状に関する証拠にすることはできます。
更に,被害者は,積極的に,自らあるいは弁護士に委任して裁判に参加し,被告人に質問をしたり,量刑に関する意見を述べたりすることが可能です(被害者参加)。
 私の担当した事件では,被害者(2名)の方々いずれも書面を提出して厳罰を求めていました(女性の検察官が法廷で代読)。このことが,どの程度裁判官,裁判員の心証に影響を与えたかは分かりませんが,世間的に見て,これまでの性犯罪に対する従来の量刑は軽いと言われており,裁判員裁判では従来の相場より重くなることが多いようです。私の担当した事件でも,判決で,はっきりと「従来は軽すぎた」との指摘がされていました。今後もこの傾向は続くと思います。

⑤最後に
 私の経験した事件では,事実関係に一部争いがあったのですが,被告人の主張が認められました。そもそも裁判員制度が導入されたのは,刑事裁判に一般市民の健全な常識を反映させるためでした。私としては,今回,常識的な正しい事実認定が行われたものと思います。
 裁判員裁判では,特定の重大な犯罪についての弁護をすることもあり,弁護人に対し「こんな悪い奴の味方をするのはけしからん」と世間から非難がなされることもありえますが,えん罪を防ぎ,恣意的な裁判がなされないよう被告人の権利を護るのが弁護人の義務ですのでこのような批判は当たりません。誤解されないよう,念のため付け加えておきます。

                             2010年11月記
                               須 見 健 矢

「投資」はプロがやるべきです。

1.不景気の拡大

 「日本には影響が殆どない」などと言われていたのに、サブ・プライム発の不景気が深刻です。結局、アメリカの過剰消費に依存していた面が大きいから、アメリカの家庭が節約を始めると日本の輸出にも影響してきた、ということになります。
 過剰消費を可能にしたのは何故か、について原因をきちんと整理すべきですが、その反省もこれからでしょう。ここでは原因は何か、という経済学ではなく、消費者問題を扱ってきた経験から、法律的な面も加味した意見を書いてみます。

 

2.日本政府の方針

(1) 「日本版ビックバン」という言葉を覚えていますか。
 これは、改革というラベルは貼ってありますが、「貯金ばかりせずに投資信託や株を買いなさい」ということです。
 「リスクをとるべきだ」という言葉も政府の明確な方針として出ています。しかも、この方針は現在も維持されています。
(2) よく、「直接金融、間接金融」という言葉や、「景気回復には世代間の資産移転が必要だ」という言葉を耳にしませんか。わかりやすく表現すると、「銀行預金ではなく、(株式)市場に金を投じなさい」「高齢者の貯金をそのままにしておくと(あまり使用しないので)景気に役立たないから、何とかして市場で使って下さい」ということと同義です。(子供に金を渡すと贈与税をとられます)
(3) その為に華やかな(?)議論があります。「投資信託こそ決定打」だとか、「金融工学」などなどです。一方で「自己責任」ということが強調されます。念のために繰り返しますが、これは「ビックバン」以来の政府による方針なのです。しかも、幅広い国民に向けた方針です。

 

3.投資はプロが行うべきです。
(1) 被害者の相談(株、先物、場合によっては保険商品など)を受けてきた立場から申し上げますと、「素人は絶対おやめなさい。そもそも素人を勧誘すること自体おかしい」と考えています。「市場」なるものが仮に不可欠だとしても、それは「プロ」が参加すべきです。
 念のために、「リスクをとる」とか「自己責任」という言葉は、法律上は「敗訴」に結びつきます。つまり、誰も賠償してくれない(泣き寝入り)のです。刑事事件にもまずならないだろうと考えて下さい。
(2) プロがやるべきだ、と考える理由の1つに、金融工学に基づく「複雑な商品」の登場があります。「リート」だとか「FX」なども大変理解が困難です。「やさしい」と思っている方は、どこか誤解があると思って下さい。しかも、投資信託にもリスキーな商品が組み込まれていることは、もはや珍しくありません。
 では、「預金」はどうか。実は預金も「外貨」を組み込んだり、金利の変動する商品などが出てくると簡単ではありません。つまり、もはや理解すること自体が困難なのです。「訳の分からないものを買って大金を出して良いのですか」と聞くと、たいてい方は「私は絶対そんなことはやらない」と言います。それならやめるべきです。昔安かったものが今は高い、ということは身近に経験していると思います。例えば、魚ですね。何故高くなるかというと、あまり獲れなくなったとか、世界的に需要が多くなったとかが話題になるはずです。さて、そこです。形のうえでは同じものでも、周囲の状況が違ってくるともはや違うものなのです。特に「投資」についてはそこを肝に銘じておくべきです。最もわかりやすく言うと現物株です。市場の構造が変化しているため、これまでのような予測が通用するかどうかわかりません。例えばTOPIXに連動させるとか、一定の数式に基づいて自動的に注文を出す、という方法は値段に影響しますが、そんなことは判断できますか。対象が同じだから値段の予測も同じではないのです。つまり「訳の分からないことでは同じですよ」という結論をとるべきだと思っています。

 

4.プロに任せるのはどうか?
 次に、ではプロに任せよう、投資顧問業もある、とお考えになる方も出てきます。実は私はこれにも反対です。何故なら、(当然ながら)結果を保証するわけではないからです。プロだからと言って絶対大丈夫なわけはありません。もし、そのような人がいるならば、その人は自分でやれば済むことですし、むしろ秘密に行わないと、利益にはならないはずです。
 結局、参加して良いのは「自分でリスクをとる覚悟と、資金力と知識がある人」もしくは、銀行などを含む機関投資家だけだと思います。

 

5.経済は大丈夫か?
 そんな心配は不要です。皆さんがご心配する必要はないですし、貯金を無くしてしまったらそれこそ生活ができなくなり、その意味で経済も悪化します。また、実物経済と結びついてこそ市場なるものも健全であり、意味を持つのです。「多くの人が(気軽に)参加できる儲かる市場」は単なる幻想に過ぎず、米国発のサブプライムショックはそのことを示していると私は考えています。
                                    以上

                                  小林政秀

裁判員制度について思う

1.新聞などのマスコミでも「裁判員」について、かなり報道が目につくようになりました。このホームページを読んでいる方も「選任」されるかもしれません。改めてここで重大だと思うことを書いておこうと思います。

 

2.私(小林)は実は「賛成だが、いかにも不充分だ」と思っています。
(1)何故賛成か
 「裁判」というのは、日本ではどうも「お上がやるものだ」という基本的な価値観があると思います。
 しかし、この「お上」というのは「民主制」とは対立するものであろうと私は考えています。故司馬遼太郎氏の文に、日本人の「治められ上手」という表現がありました。時々同じようなことを外国をよく知っている人からも聞きます。どうも「よく働く」という話につながるようです。しかし、すべてに良い面と悪い面があります。ここはよく考えるべきです。
 治められ上手というのは、悪くすると単に受身であり、面従復背という形でしか社会に参加しないということに結びついていると私は認識しています。
 これは、克服すべき部分と思います。裁判員としての参加はお上ではなく、「自分達が(主人として)やるんだ」ということにつながっていきます。だからこそ私は賛成です。
(2)何故、不充分か(刑事裁判の構造と労基法などで足るか、という心配)
 これは刑事裁判の構造として、被告人の「正当な」防禦権への考慮が置き去りにされているのではないか、と思うからです。例えば「迅速な裁判」というと「素晴らしい」と言ってしまうにはためらいが出るのです。
 迅速に終わらせると、誤判もしくは証拠の不充分さが見逃されるなどの危険は充分にあります。従って、審理を尽くそうとすると、その場合はある程度の長期化が避けられません。そのためにも、裁判員の方が「出頭する場合の権利保護」を勤務先との関係で保障する必要があります。労基法では休日の取得が保障され、裁判員法では不利益取扱禁止の定めができました。ですが、実際には身近なものとして皆さんが認めていくことが必要になると思います。
 実は、刑事裁判については、弁護側からすると心配の種が非常に多いのです。「取調の可視化」(録画です)を完全なものにするべきだ、とか「代用監獄」(警察の留置場です)を廃止すべきであるとか、検察官の上訴権が無限定すぎるなどといった大きな問題が残されているのです。すべて「自白を重大なものとする」ことにつながります。ところが、これらを考えていこうとしても「悪い奴」のニュースが出るとそういった問題が隠されて、「早く判決しろ」となってしまうのです。加えて、「どうしてあんな奴の弁護をするのだ」という非難(だけ)が大きくクローズアップされるわけです。裁判を「復讐劇場」にすべきではありません。このあたりは国民全員が冷静にじっくりと考えてみるべきだと思います。


3.「死刑」にも関連します。
 「死刑」が求刑されると裁判員の方は大きく悩むはずです。私は「死刑」については段階的に廃止した方がよい、との考えです。しかし、死刑に賛成という方でも、現実には「本当にいいのだろうか」という悩みが大きくなるはずです。有罪ということについて確信が持てたとしても、量刑については、数学と同じような客観的な基準を決めることは無理です。量刑「相場」はこのくらいという形で今まで死刑についても裁判所内部で運用されて来ましたが、皆さん納得できるでしょうか。結局、裁判員の方にとってみれば求刑での「死刑」はない方がよりよいのではないでしょうか。(何故廃止を求めるか、というテーマは継続にしたいと思っています。)
                                    以上

                                  小林政秀

サブプライム問題は、身近にあります

1.「米国発の世界不況か」と大騒ぎになっていることは、毎日の新聞・ニュースでご存じですね。サブプライム問題の影響については、円高(正確には米ドルだけ弱くなっている)と株安、米国の不景気による輸出減退と、これらの結果としての日本不況の到来といったところが、共通の理解のようです。


2.「自分は株も外貨(ドル)も持っていないから関係ないや、不況は困るけど」と思っている人が多いでしょう。
 ですが、実は日本でも皆さんにとても大変身近にある問題なのです。まず、「サブプライム」と言っても結局は「住宅ローン」のことです。そうすると殆どの人がローンを背負っていますね。しかも日本でも「変動金利」です。今は低いですが、「インフレにするべきだ」という主張が経済界、学者、政治家の間で堂々と行われています。私はとんでもない主張だと不快ですが、もし、この考えが主流になったり、景気の転換などで高金利になったら、非常に多くの人が日本でも払えなくなります。弁護士業務をやっていると、そのことはよくわかります。


3.次に、何故世界の各地に影響が飛び火しているのか、ということですが、これは「ローンの証券化」という金融技術によるものです。何やら難しそうですね。確かに、かなり高度で洗練された技術ですので、全体像が誰でもわかる、という訳にはいきません。
 ですが、実は突き詰めると簡単だと私は思います。何のことはないのです。単に「ローンを色んなところに売りつけた」ということです。民法に「債権譲渡」という条文がありますが、そこを大規模に複雑にしたものなのです。


4.この債権譲渡という点も身近なことです。日本で金利が上昇して皆さんが住宅ローンを払えなくなったら、借りた銀行からではなく、「銀行と(譲り受けるなどして)話をつけたところ」から請求が来ることになります。これが「債権譲渡」です。こう書くと、「なんだ、その話ならよく知っている」ということになるでしょう。
 真剣に教訓として考えるべきなのは、「払えないような住宅ローンをどうして大量に組んだのか」ということなのです。日本でもバブルと言われる時代によく見た話でしょう。しかし、深刻なのは、「大量」に組んだということは、米国で貧困層が大量に存在することを示していることです。格差の固定化です。日本で今一番問題になっていますね。米国では「貧困の克服」については何故か議論されているようには見えません。個人の努力だけのこととして考えているのでしょうか。


5.私達の事務所では「住宅ローンの支払い」の問題について、悩んでいる方々の相談が多くあります。共に解決策を見つけていきたいですね。

                                  小林政秀

裁判員制度って,何!

 皆さん,裁判員制度って知ってますか。町にもポスターがたくさん貼られていますね。市民の皆さん(6名)が裁判官(3名)と一緒になって,刑事裁判に関与し,有罪,無罪を決める制度で,いよいよ2009年から始まります。
 どうして,市民が刑事裁判に参加しないといけないの。扱うのは殺人や強盗事件など重罪事件で,そんな事件を本当に市民が有罪無罪を判断できるの。仕事のある人は仕事を休むの。家庭の都合がある人はどうするの。支障が出たときはどうするの。いろいろ心配がありますね。
 でも,この制度ができたのはもちろん理由があります。皆さんは,周防正行監督の痴漢事件を扱った映画「それでもぼくはやっていない」をご覧になったことがありますか。
 日本の刑事裁判は,これまでずっとプロの職業裁判官が行ってきました。弁護士の立場からみるとよく分かるのですが,刑事裁判官の意識は,起訴されたら有罪という感覚が本当に強いのです。検察官に仲間意識をもち,被告人は犯罪者という意識で,どうしても治安を護ろうとする目で被告人を見がちになります。そこにえん罪が発生する温床があります。
 皆さんは「無罪の推定」という考えを知ってますか。「疑わしきは被告人の利益に」という考えと同じです。刑事裁判では,被告人は起訴されても犯罪を犯していないという前提で見て,検察官が有罪を疑いのない程度に証明しなければ無罪にするという原則があります。しかし,実際には日本の裁判はこうなっていません。これを変えようとするのが裁判員制度です。市民の皆さんにとっては初めての事件となりますから,新鮮な目で慎重に証拠を見て有罪か無罪かを判断できます。この点は職業裁判官よりも優れています。また,6名の市民の皆さんの多様な社会的経験が真実を見抜く力を持っている,こうした力を信頼しましょうということなのです。こうなれば,「裁判は,お上にまかせればいい」という気持ちも変わってゆきますね。
 皆さんを長く裁判に拘束できませんから(裁判は3日4日,長くて7日程度といわれています),短い期間に裁判を行うために,強制された自白調書の違法証拠を資料として使わないよう警察,検察などの捜査側の取調をテープやビデオに撮ろうということが始まっています。それによって嘘の自白が生まれないようにしようという効果が期待されています。
 皆さんの市民感覚を大切にするということですから,一緒に参加して審理する裁判官(3人)の意見だけに影響されては意味がありません。裁判員となる市民(6名の人です)一人一人の票の重さは裁判官と同じです。このことをよく理解して参加して下さい。
 扱うのは殺人や強盗事件など重罪事件ですから精神的な負担もあります。そのための心理的ケヤーも必要です。勤務会社の理解,協力も必要となり,そのための制度的な仕組みを作ることも必要です。家庭での条件作りも考えないといけません。日当が一日1万円以内で出ますが,どうしても休めない仕事や用事のある人は辞退できる保障も必要です。日本にはまだ死刑制度がありますから,絶対に死刑は認めないという信念の人は裁判員に選ばれないこともあります。
 ともかく,大きな改革です。これからも新聞などの記事に注目して下さい。

                                  森田太三

新しい成年後見制度について

1 成年後見制度とは
 成年後見制度とは、平成12年4月から始まった制度です。
 「精神上の障害により判断能力が不十分な人」について保護する制度で、契約の締結等を代わって行う代理人など本人を援助する者を選任したり、本人が誤った判断に基づいて契約を締結した場合にそれを取り消すことができるものです。

2 これまでの成年後見制度
 これまでの成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、禁治産と準禁治産の2つの類型が設けられていました。
 禁治産は、心神喪失の常況にある者(自己の財産を管理・処分することができない程度に判断能力が欠けている者)を、準禁治産は、心神耗弱者(自己の財産を管理、処分するには常に援助が必要である程度の判断能力しか有しない者)を対象とし、それぞれの判断能力の程度に応じて保護の内容が法律(民法)で定められていました。
 しかし、この制度は、判断能力の不十分さが心神耗弱に至らない比較的軽度な者を対象としていませんでした。また、制度が硬直的であるなど利用しにくい面がありました。

3 新しい成年後見制度
 新しい成年後見制度は、これまでの禁治産、準禁治産の制度を改めた「法定後見」(民法で定められます。)と、新しく作られた「任意後見」(任意後見契約に関する法律で定められます。)があります。
 成年後見制度は、痴呆症高齢者、知的障害者精神障害者等精神上の障害により判断能力が不十分な人を対象とします。すなわち、身体機能に障害があるため一人では十分に財産上の行為を行うことができなくても、判断能力は十分ある人は対象者から除かれます。

4 後見の概要
 後見の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(改正後の民法7条)です。これは、自己の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている人、すなわち、日常的に必要な買い物も自分ではできず誰かに代わってやってもらう必要がある程度の人です。後見が開始されると、成年後見人が選任され、成年後見人は、本人の行為全般について、本人を代理することができ、本人がした行為を取り消すことができます。
 後見においては、本人がした行為は取り消すことができますが、日用品の購入等日常生活に関する行為については取り消すことができないとされています(改正後の民法9条)。

5 保佐の概要
 保佐の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者」(改正後の民法11条)です。これは、判断能力が著しく不十分で、自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要な程度の人、すなわち、日常的に必要な買い物程度は単独でできますが、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等、重要な財産行為は自分ではできないという程度の判断能力の人のことです。ただし、自己の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている者は、保佐でなく、後見の対象者となります。
 保佐が開始されると、保佐人が選任され、本人が行う重要な財産行為については、保佐人の同意を要することとされます。本人又は保佐人は、本人が保佐人の同意を得ないで行った重要な財産行為を取り消すことができます。また、必要があれば、家庭裁判所は、保佐人に本人を代理する権限を与えることができます。

 保佐人に同意権・取消権が与えられる重要な財産行為にはどんなものがあるでしょうか。
① 元本を領収し又は利用すること、
② 金銭を借り入れたり保証をすること、
③ 不動産又は重要な動産(自動車等)の売買等をすること、
④ 訴訟行為をすること、
⑤ 贈与、和解又は仲裁契約をすること、
⑥ 相続の承認若しくは放棄又は遺産分割をすること、
⑦ 贈与若しくは遺贈を拒絶し、又は負担付きの贈与若しくは遺贈を受諾すること,
⑧ 新築、改築、増築又は大修繕をすること、
⑨ 建物については3年、土地については5年を超える期間の賃貸借をすることなどがあります(改正後の民法12条1項)。
 したがって、これらのすべてについて自分ではできず、常に援助が必要であるという程度の判断能力の者が保佐の対象者とみることができます。その代表的なものは、前記のとおり、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等ですから、これらについて常に援助が必要かどうかが、保佐に該当するか、あるいは保佐に至らない程度であるかを判断する指標とすることができるでしょう。

6 補助の概要
 補助の対象者は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者」(改正後の民法14条1項)です。これは、判断能力が不十分で、自己の財産の管理、処分するには援助が必要な場合があるという程度の人、すなわち、重要な財産行為は、自分でできるかもしれないが、できるかどうか危ぐがあるので、本人の利益のためには誰かに代わってやってもらった方がよい程度の人をいいます。
 補助が開始されると、補助人が選任されて、補助人に本人を代理する権限や、本人が取引等をするについて同意をする権限が与えられます。代理権や同意権の範囲・内容は、家庭裁判所が個々の事案において必要性を判断した上で決定します。補助人に同意権が与えられた場合には、本人又は補助人は、本人が補助人の同意を得ないでした行為を取り消すことができます。
 補助を開始するに当たっては、本人の申立て又は同意が必要とされています。補助の対象者は、後見及び保佐の対象者と比べると、不十分ながらも一定の判断能力を有しているので、本人の自己決定を尊重する観点から、本人が補助開始を申し立てること又は本人が補助開始に同意していることを必要としたものです。この本人の同意は、家庭裁判所が確認します。これに対し、後見及び保佐においては、これらを開始するに当たり、本人の同意は要件とされていません。

7 任意後見の概要
 任意後見は、原則として、精神上の障害により判断能力が低下した場合に備えて本人があらかじめ契約を締結して任意後見人となるべき者及びその権限の内容を定めて、本人の判断能力が低下した場合に家庭裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任し契約の効力を生じさせることにより本人を保護するというものです。家庭裁判所が任意後見契約の効力を生じさせることができるのは、本人の判断能力が、法定後見でいえば、少なくとも補助に該当する程度以上に不十分な場合です(補佐、保佐、後見のいずれに該当する場合も任意後見契約の効力を生じさせる事ができます。)。任意後見人には、契約で定められた代理権のみが与えられます。
 任意後見においても、本人の自己決定を尊重する観点から、契約の効力を生じさせるに当たって本人の申立て又は同意が必要とされており、家庭裁判所がこの本人の同意を確認します。

8 裁判所による監督
 後見、保佐又は補助が開始された場合、家庭裁判所は、後見人、保佐人又は補助人に対し、その事務について報告を求めたり、本人の財産の状況を調査することができます。また、その事務について必要な処分を命じることや、後見監督人等を選任して監督に当たらせることができます。また、後見人等が不正行為をするなど、その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は後見人等を解任することができます。
 任意後見では、家庭裁判所は、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて任意後見人の事務を監督することになりますが、後見等の場合と同様に、任意後見人にその任務に適しない事由があるときは、任意後見人を解任することができます。
 こうした監督を通じて、後見等の事務が適正に行われることが担保とされています。

9 成年後見制度における鑑定
 これまでの成年後見制度では、禁治産及び準禁治産のいずれについても、鑑定をしなければならないものとされており、新しい成年後見制度でも、これまでの禁治産及び準禁治産に相当する後見及び保佐では、原則として鑑定が必要であるとされています。補助及び任意後見については、鑑定を必ずしなければならないものとはせず、医師の診断書で足りるとされています。

 以上、新しい成年後見制度を説明しました。申請書類は家庭裁判所いけば入手できます。また、「証明書」なども必要ですがそれは法務局民事行政部後見登録課におけば入手できます。
 「補助」の制度は本人の意思を尊重しながら柔軟な運用ができますし、現在問題となっているような言われるままに高額の品を買ったり借金したりする癖のある方 (但し、精神上の障害により判断能力が不十分な人である必要があります)の家族の方が将来の問題発生を予防したいと考えられているケースもあります。
 有効にこの制度をご利用下さい。

                                  森田太三

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